コロナによるオーストラリアの生活者と日豪関係の変化

2021年11月11日

オーストラリアでは10月末時点で成人の約75%が2回目のワクチン接種を完了し、飲食、小売店などの営業も再開され、ようやく本格的なコロナ明けの兆しが見えてきました。

2020年から1年半以上に及ぶ国境封鎖を経て、日本との渡航再開も現実味を帯びてきた今、オーストラリアの生活者と日豪関係はどのように変化したのでしょうか。

●コロナ禍の経済影響を最小限に抑えたオーストラリア、好調な国内消費

まず、オーストラリアの2020年実質GDP成長率は−2.4%となりました。この数値は日本-4.8%、米国-3.5%等と比較しても低く、オーストラリアは「先進国の中でもコロナによる経済影響を最小限に抑えた国のひとつ」といえます。

実際に実質GDPが前期比マイナスに転じたのは20年第1四半期(-0.3%)、第2四半期(-7%)のみで、20年7月以降は増加に転じています。家計支出も同様に20年7月以降は前期比増加を継続し、国内消費は好調に推移しています。

この背景には、政府の迅速かつ手厚いコロナ対策があります。政府は20年3月から21年3月までの約1年の間、コロナによる影響で職を失った人および売上が減少した企業の従業員に対して、最大時で2週間ごとに1500ドル(80円換算で12万円)の給付金を支給する制度を実行しました。

また少しでも感染増の兆候があればロックダウンを実施することで、(デルタ変異種の蔓延時を除き)長期に渡りコロナの封じ込めに成功してきました。

これら経済、生活面での安心感が消費者心理にポジティブな影響を与えてきたと考えられます。

コロナ禍の不動産購入や、車や時計などの高額商品購入の増加、国内旅行先への需要集中は頻繁に報道され、シドニーで生活している中でも、消費は減少したというよりも、海外旅行など外で使われていた消費が国内消費に変換されたのみといった印象を持ちます。

好調な国内消費に後押しされ不動産価格も上昇

●デジタルトランスフォーメーションへの移行、倫理観のある商品・サービスへの支持

コロナの流行は、オーストラリアのキャッシュレス化を5年早めたといわれています。

オンライン決済大手Paypalの登録者数は800万人となり、その数は今や人口の約3分の1を占めます。若年層だけでなく50歳以上の利用者も急増しており、また消費者の79%が今後オンライン決済の頻度が増加すると回答した調査レポートもあります。

感染者追跡のためのアプリやQRコードの普及によってデジタルリテラシーも向上し、こうした社会全体のデジタルトランスフォーメーションへの移行は、路面店を持たない製品でも今後オンラインを通じて海外市場を開拓できる機会を広げることになると感じています。

また消費者の心理変化として、これまで以上に社会的にも環境面でも配慮のある企業・サービスが支持される傾向がみられるようになりました。

21年8月の国内消費者レポートでは「ブランドの信念や行動に信頼性のある企業との関わりを増やしたい」「環境に好影響を与える製品を販売する企業を支持したい」「自らも倫理観を持って消費したい」といった項目に高い回答が集まりました。

コロナにより世界全体が困難に陥り、これまで当たり前にあった生活が送れなくなったことは、人々にいま目の前にある生活や、自身の社会との関わりを見つめ直す機会を与えました。

既に日本でも成功しているオーストラリア発祥のスキンケアブランドAesopが、自然由来の製品を一貫性をもって販売することで消費者の支持を集めたように、「倫理性」「持続可能性」「環境への配慮」「社会性」といった点は、今後オーストラリアでビジネスを展開する上で念頭に置くべき項目になっていくでしょう。

社会全体がデジタルトランスフォーメションへ移行

●日本とオーストラリアの関係性の発展へ

また、コロナに端を発した中国との関係性悪化により、オーストラリアは日本との結びつきを国レベルで深めていく方針に舵をとりました。

先日報道されたAUKUSの創設や、Quad首脳会合といった安全保障面での連携に留まらず、経済面でも日本との結びつきを強化していくことが予測されます。

これまで輸出・輸入双方でシェア1位を占めていた中国から、輸出2位、輸入3位に位置している日本との貿易強化へ。一例として、21年4月からオーストラリア産ワインの関税は撤廃されることとなりました。

また中国からの投資も大幅に減少しており、オーストラリアはその穴埋め先として、長年にわたり友好関係を維持している日本企業からの投資を歓迎しています。

先行して、近年は日本ペイントやアサヒビール等による国内主要企業の大型買収が盛んになっています。

オーストラリアに進出するメリットとして、1)政治や経済が安定し、地理的な近さからも進出しやすいこと、2)資源国のため好景気が続きやすく、安定した経営が見込めること、3)他国から離れた島国のため国内企業が高い市場シェアを占める産業が多く、これらの企業との提携・買収により早期の市場参入、ノウハウ獲得ができることがあげられます。

さらに、国民の4人に1人が海外生まれという多民族国家であるため、グローバル市場の縮図としてテストマーケティングに適していることも特筆すべき点です。

今や世界中で展開されているマックカフェも、テスラのパワー・ウォール・バッテリーも、グローバル市場で本格展開をする前にはオーストラリアでテストマーケティングをしたという実例があります。

英語圏のため言語障壁も低く、アジア系、中東系、西洋系の人種が一定数いるため、グローバル展開を見込む企業にとっても、ASEANなど特定エリアへの進出をする企業にとっても、1カ国で多様なデータがとれることは大きなメリットとなります。

多民族国家としてグローバル市場のテストマーケティングに適する

オーストラリア首相が昨年コロナ発生後の初の外交先に日本を選び、また岸田内閣発足の翌日に電話会談を行ったことにも、オーストラリアが日本を重要な友好国と考えていることがあらわれています。

今後、国レベルの後押しを受けて多くの日系企業、オーストラリア企業がそれぞれの国に進出し、両国の文化やビジネスがさらに発展していくことを期待しています。

*2021年10月27日時点の情報に基づいて執筆しており、現在の状況と異なる可能性があることをご了承ください。

*本記事は中小企業基盤整備機構「海外ビジネスナビ」に代表作野が寄稿したものを掲載しています。 https://biznavi.smrj.go.jp/15383/

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